Dobbleに見る有限射影平面
「Dobble」というゲームがあります。
このゲームを離散数学の視点から見てみたいと思います。
Dobbleというゲーム
Dobbleというカードゲームが発売されています。
公式ホームページの説明には
ドブルは、それぞれに50種類以上のマークの内から8つが描かれた55枚のカードで遊ぶゲームです。全てのカードは他のカードとたった1つだけ共通するマークが描かれており、それを探すことがゲームの目的です。
とあります。
つまり、55枚のカードにそれぞれ8つずつのイラストが書かれており、任意の2枚を並べると必ず1種類のイラストだけが共通しているというカード群を用いて遊ぶゲームです。
今回はこのゲームの遊び方ではなく、カードの数学的性質に着目してみようと思います。
カードを点、マークを直線と考えると、これは明らかに「有限射影平面」です。
有限射影平面とは
難しい数学の定義が続きますが、お付き合いください。
「難しいことは嫌いだ!」って人はちょっと下の図形が描かれている画像の下から読んでみてください。
定義1.[有限射影平面]
$X$を有限集合とし、${\cal L}$を$X$の部分集合族とする。対$(X,{\cal L})$が次の公理(P0)~(P2)を満たすとき、それを有限射影平面と呼ぶ。 $(X,{\cal L})$が有限射影平面のとき、$X$の元を点、${\cal L}$の元を直線と呼ぶ。 点$x \in X$に対して、直線$L\in {\cal L}$が$x \in L$を満たすとき、「点$x$は直線$L$上にある」、「直線$L$は$x$を通過する」という。
(P0)4つ点が存在して、そのうちどの3点も同一直線上にない。
(P1)任意の異なる2つの直線はちょうど1つの頂点を通過する。
(P2)任意の異なる2点に対して、それを通過する直線がただ1つ存在する。
定義2.[位数]
有限射影平面$(X,{\cal L})$の位数を$|L|-1$と定める。 ただし、$L\in {\cal L}$は直線である(位数は直線$L$の選び方に依存しない)。
定義3.[位数と点と直線の関係]
$(X,{\cal L})$を位数$n$の有限射影平面とする。 このとき、次が成り立つ。
$X$の各点を通る直線はちょうど$n+1$本である.
$|X|=n^2+n+1$
$|{\cal L}| = n^2+n+1$
……専門でない人にとっては意味不明かと思います。
具体的な例で考えます。
この図をよく見ると、
- 2本の直線を選ぶとちょうど1つの黒い点の上で交わっている
- 2個の黒い点を選ぶとちょうど1本の直線がその上を通っている
- 黒い点1つを通っている直線は3本
- 1つの直線が通っている黒丸は3個
(真ん中の丸い円のような線は1本の“直線”と考えて下さい。)
という不思議な図形になっていますが、このような条件を満たす図形のことを有限射影平面と言います。
この黒い点1つが通っている直線の本数-1を数学用語で位数と言います。
さらにすごいのは、このような図形を作ろうと思うと「必要になる黒い点の個数」と「直線の本数」は必ず等しく、しかも位数を$n$とすると、必要な黒い点の個数と直線の本数は必ず$n^2+n+1$になっています!!
ドブルの場合
Dobbleにおいては同一のカードに8つのイラストが書かれています。
カードが点、マークが直線であるので、$X$の各点を通る直線がちょうど8本ということになり、定義3から$n=7$となります。
これより$|X|=|{\cal L}|=7^2+7+1=57$となり、カードとマークは共に57枚(個)必要となります。
しかし、実際発売されているカードの枚数を数えるとホームページの記述の通り55枚となっており、2枚足りません。
要はDobbleの
- 1枚のカードに8つのマークが描かれている。
- 適当な2枚のカードを取ってくると1つのマークだけが共通している。
という状況を数学的な理論を使って解くと、必要なカードは57枚になるのですが、実際販売されているカードは55枚です。
……おかしい。
調査してみた
ドブルは全てのカードにマークが8個ずつ描かれています。
2枚足りないので、1種類のマークが2枚分少なく、15種類のマークが1枚分少ないはずです。
カードを購入しマークを調べて集計しました。
カードは55枚、マークは57種類ありました。
予想した通り「1種類のマークが2枚分少なく、15種類のマークが1枚分少ない」という状況でした。
これによって、
56枚目は「カエデ,赤い葉,カナダ」「マーガレット」「オレンジマン」「雪だるま」「氷,ゼラチンキューブ」「ティラノサウルス,恐竜」「サボテン」「はてなマーク」で、
57枚目は「ドクロ,海賊」「紫の目」「黄色の犬」「雪だるま」「てんとう虫」「かなづち」「電球」「びっくりマーク」であることがわかりました。
図1:カードをスキャナで取り込んで擬似的に作った56枚目と57枚目のカードの図。
結果
やはり2枚足りませんでした。
なぜあえて2枚取り除いてゲームにしたのかが分かりません。
このゲームは戦略的な遊び方をするわけではなく、反射神経で遊ぶような遊び方が提示されています。なので2枚足りないからといって、使用が少ないイラストで不利になることはなさそうです。説明書には
カードが31枚、図が6つでは少なすぎと考えました。実際のテストプレイを得て、最終的に7桁の数の組合せで設定された、カード57枚、図を8つに変更しました。ゲームのルールもまだ作っていませんでした。要するにゲームは未完成の状態でした。数々のプロトタイプが作成され、何度も、特に子供たちとのテストプレイを繰り返しました。
と書いてありましたが、テストプレイの中で何か不都合があったのかなと想像する程度です。
参考文献
[1] 株式会社ホビージャパン(2012)「ドブル日本語版」,<https://hobbyjapan.co.jp/dobble/>2017年12月3日アクセス.
[2]J. マトウシェク/ J. ネシェトリル(1998)『離散数学への招待 下』 (根上生也・中本・中本敦浩訳)丸善出版.
[3] Maxime Bourrigan(2014)「DOBBLE ET LA GÉOMÉTRIE FINIE」, <http://images.math.cnrs.fr/Dobble-et-la-geometrie-finie.html> 2017年12月3日アクセス.
[4]Dušan Rychnovský(2014)「Dobble card game - mathematical back- ground [duplicate]」 <http://math.stackexchange.com/questions/464932/dobble-card-game- mathematical-background>2017年12月3日アクセス.